2005年02月22日

アウトロー交戦記 第七回(寄稿:前原龍彦)

 さて、前原だ。ここのところ、実は堅気になりたくて仕方ない。

 とは言え、自分が行けるところでまともに稼げるところといえば、ガテン系資格を活かした荷役辺りなんだが、これが渋かった。


 某大手酒メーカーの倉庫で働いていたのだが、トラックをタラップに直結できるように吹きっ晒しになっているので、冬場の風がものすごく寒い。

 仕事自体はどうにかなっても、雰囲気のよさも格別だ。同僚は、金の話しかしない卑屈なリストラ組と、歯が溶けちゃった若い連中。

 管理側はそんなシュードラチームを完全な低脳として正当に扱い、大学生がバイトに来ると学歴コンプレックスなのかヒステリーを起こしっぱなしで一日怒鳴っている。

 ワキガと腐った歯茎のニオイに満ちた地上の楽園は、不景気で前日に急に仕事がなくなったりし始めたので、華麗に脱出して来てしまった。

 今度はオフィス系の仕事にと思ったんだが、軒並み面接に落ちる。まあ仕方ないか。

 おまけに、その帰り道にまたアウトロー仕事の依頼が入る。脅し取られた20万の回収に、リクルートスーツで奔走する。

 やれやれ。私を堅気にしない力が働いているに違いない。

 さて、そんな訳で、今回は腐った歯茎の思い出、以前に出会った薬物中毒者との戦いの話をしよう。


 あれはまだ、中型免許を取る前、スクーターで遊びまわっていた頃だ。信号待ちをしていると、車体がなんだか前に流れる。

 おかしいな? とそのまま確認するうちに、それが後ろに着いたスクーターが押しているせいだと分かった。50CCの原付に乗っているのは、二人組の若いの。それぞれ口にコーヒーのカンをくわえてニヤニヤ笑っている。

 まっとうな皆さんはご存知だろうか? これは当時はやっていたトリップのしかただ。トルエンかシンナーを入れたカンを咥えて、立ち上る香気でラリラリになりながら国道を飛ばす。

 俗に、薬物中毒者と喧嘩をしてはいけないという。力の加減が出来ないし、こちらの攻撃に対しても、力の加減で受け止めないからだそうだ。おまけに麻酔効果で痛みにもひるまない。

 つまり、ちょっとやそっとの攻撃は効かないが、それ以上やるとあっさり大怪我をするという性質の悪い相手なのだ。転倒したまま頭でも打たれて死なれた日には、大損すること受けあいだ。

 だが、若かった私は、売られた喧嘩は必ず買ってた。反射的にバイクを降りた。

 後に、道をふさいだ暴走族を後ろから煽って泣かせる私も、この時はまだバイクによる戦闘という概念が無かった。

 スタンドを立てている間に、相手は方向転換し、赤信号を無視して走り去って行ってしまった。

 すっかりドジをこかされた私。すぐにスクーターにまたがり直すが、いかんせん青信号まで待たないと。

 信号が変わるなり、全力で追っかける。もう、何法をなんのために守っているのかわかりゃしない。

 逃げる敵、追う私。史上最も道交法を守ったカーチェイスの結果、とうとう私は敵を補足した。

 相手のバイクの左に併走、接近するなり、運転手の顔面に思い切り右の拳を振付けた。

 カンの底に鉄拳炸裂! 人中をかち上げられた相手は仰け反り、コントロールを失ったスクーターは失速。転倒するのを尻目に走り去る私。

 の、はずだった。

 が、失速したのは私だった。尻目に走りさるのは向こう。


 バイクというのは、ハンドル右に着いている、アクセルで速度がコントロールされている。つまり、右手を離してしまうと、恐ろしい勢いでエンジンブレーキが働き、たちまち停止してしまうのだ。

 空ぶった右手を伸ばしたまま、国道上に停止する私のスクーター。まるでウィンカーが壊れて右折指示を出しているみたいだ。

 ラリラリスクーターは、たちまち見えなくなってしまった。

 後に聞いた話によると、バイクでの戦いは相手の右に位置するのが基本だそうだ。そこから相手の右手を狙う。あるいは、ハンドル右にあるキルスイッチを押して、エンジンを切ってしまうのがいいらしい。

 あれから大分立つ。今ではその手も何度か使ったし、左側からは足を伸ばして、相手のスタンドを下ろす技もマスターした。これをやれば、安全装置がかかってエンジンが止まるのだ。


 だから諸君。決してその手を離してはいけない。
posted by 久遠 at 14:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | アウトロー通信
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