2005年03月30日

アウトロー交戦記 第八回(寄稿:前原龍彦)

 前原です。実は昨夜、若造に絡まれて一戦交えました。まったく、なんだって私の回りはこんな事ばかりなのだろうと思う。


 繁華街近くの中学校の前でツレの二人と立ち話をしていたのだが、どうも暗くて、私の姿が若く見えたらしい。まぁ、私は普段からいかにもピラチンのような格好をしているから、きっと相手は同世代の奴が縄張りでうろついてると思ったのだろう。

「なにしてんの?」とお決まりのセリフを言いながら、まっすぐに向かってくる。B、とは聞こえのいい形の、HIPHOP魂のかけらもなさそうな、ファッションだけの古典的なヤンキ―だった。

 こっちはツレの二人を守ろうと、迎え撃って胸で相手を止めた。これは喧嘩の序盤に用いられるテクニックだ。一種のマン・ツー・マン・ディフェンスで、相手の動きをコントロールする。こっちのツレは、柔道初段で真面目な好青年のAさんと、拳法上手の40代、Bさんだ。

 二人とも武道経験者なのだが、私は端からそんなものが役に立つとは思ってない。武術や格闘技だけでは、喧嘩の役には立たないのだ。プロとして自分がこの「案件」を鎮圧するという義務感があった。

 私はディフェンス状態から、相手を追っ払う作戦を開始した。とにかくまず、威圧して、その上で必要なら力の差を示せば、大抵はカタがつく。場所は相手のロコ(地元)だから、さっさと処理した方がいい。

 だが、ここでBさんが余計なことをしてしまった。聞き流してればいい相手の鳴き声、「何してんの?」「あんた誰?」「どっからきたの?」なんてのを、バカ正直に答え始めてしまったのだ。

 私の背中で、Bさんはぺらぺらと素性を話す。こりゃいけない。

 そうしている間に向こうの仲間がやってきてしまった。ざっと五人追加と言うところか。私はそっちに狙いをつけた。ヤンキ―小僧は放って、後列の連中に向かっていく。

 案の定、後ろの有象無象は、突っ込んでいった身内に動揺していた。そりゃそうだろう。本職丸出しの大人に喧嘩売りたい訳が無い。

「酔っ払ってるんです、すいません」ってのを聞いたとき、強きで押せば散らせる相手だと分かった。

 自分でも恥ずかしいくらいのわかりやすい手段なんだが、墨を振り回して自分がプロである事を告げ、ガキどもを萎縮させた。まあ、「おめーらじゃあ話になんねぇから親つれてこい、テメーのお袋若いか? 土下座させてオレの×××咥えさせてやる」みたいな事を言ったわけだ。「悪い警官」っていうベタな作戦だ。悪く振舞うことで相手が引き下がりやすくしてやったわけだ。

 薄汚いやり方だが、効果はあった。「ほんとすいません、すぐに連れて帰りますんで」なんて言い出すんで、後はあのヤンキ―小僧を引き渡せば終わりだ。

 小僧を捕まえに行くと、Bさんとつかみ合いをしていた。素直に拳法家だって言ったBさんに、小僧が勝負しろと迫っているところだった。お決まりのパターンだ。

 後ろから隙だらけの小僧を捕まえて、びびってる奴の仲間に引き渡そうとしたんだが、なぜだかBさんが小僧の腕を掴んで離さない。

「ほら、こいつ仲間に引き渡しますから。離して!」

 私が言っても離さない。仲いいのか?

 何度か同じ事を言ってやっと引き離すと、今度は小僧がまたBさんに襲い掛かろうとする。お決まりのパターンだ。

 相手のパターンを踏ませるのが一番悪い、きっちりぶっ潰してやらないと。

 私は小僧を腰からアスファルトに落とした。いや、不可抗力でバランスを崩してたまたまそうなっただけですよ、もちろん。

 そのまま完全に制圧し、上から押さえた。いや、酔っ払いによる暴行を静止しただけですよ。民間人による逮捕権の範疇内だ。たまたま腕は関節を極めていたけど、それもまあ、範疇内だろう。

 当然、どこまでやれば腕ってのが折れるのか、私はみっちり分かってる。余談だが、腕が折れると骨が折れるは違う。関節技の場合は、脱臼させて腕や足を折る。骨は外れるだけで無傷だ。

 靭帯を軽く伸ばし、繊維を引き千切った程度で私は止めておいた。

「充分だろ? なぁ、もう充分だろうが?」 

 優しくヤンキ―小僧を諭して上げる。小僧は苦悶の顔で、無抵抗に体を縮めている。どうやら痛くても声が出ないタイプらしい。ちなみに、酒の匂いはしないし、顔も白かった。クスリかもしれない。 

 この時、私の意識は背中側にあった。すでに決まっている関節技に力は要らない。むしろ、外野が手を出せば一発だけそれを受け止める必要があるからだ。

 一発喰らったらすぐに小僧の腕を折って、技を解除しないとならない。次の相手に取り掛からねばならないからだ。

 だが、私を突き飛ばしたのは、Bさんだった。

「折れちゃうよ」

 その声でわかった。どうやら、悪い警官作戦が通じてなかったらしい。Bさんからの信頼は無かったみたいだ。

 私は小僧を離した。

 小僧は元気一杯に立ち上がった。こっちに向かってこようと行きまくが、さっきのが痛かったらしく、こっちが近づくと仲間の後ろにさりげなくステップアウトする。

「もう行ってくださいよ」

 と懇願する小僧の連れたち。見れば追加メンバーも来ている。

 ガッと脅かしてパッとやってサッと帰る。これが喧嘩のパターンだ。自分らの事ばっかり考えるのは、素人だ。スポーツでもゲームでもない。完全勝利なんてわかりやすい事はないのだ。相手も内心では終らせたがってる、ここで収めるのがいい手だろう。

 目で奴らを威嚇しながら、私はAさんを連れて離脱した。とにかく、ツレの安全を確保したかった。Bさんは、まあ、大人だからこの間に散ってくれるだろう、と思った。

 Aさんと歩き出すと、小僧はこっちに着いてきながら、挑発を繰り返す。すぐ前で仲間が一人、止めてくれてるのを意識したグッジョブだ。決して1.5メートル以内にはこない上に、じきにグダグダになって立ち去ってった。

 Aさんを安全なところに連れてったら、さあ解散だ、と思ったんだが、彼、どうもBさんの様子が気になったらしい。仕方なく私が一人でバイクに乗って見に行く事にした。

 メット被ってライトで光を浴びせ走りすぎれば、気付かれる事はないから安心だ。

 で、さっきの場所に戻ってみると……Bさんが十対一でもめていた。

 ヤルでなく、解散するでなく、もみ合って口喧嘩していた。……なんなんだ?

 喧嘩の場所で、どっちが正しいとかそんな事に意味はない。どう終らせるかだけの話じゃないんだろうか? それとも、そういうのが好きなのか?

 キンパチ先生状態になって慕われているBさんだが、ほっておくのも酷だ、仕方なく警察を呼んださ。

 したら、すでにBさんから通報が行っていたらしい。やれやれ。

 どうやらBさん、恐ろしく喧嘩下手だったらしい。腕や足なんか折れたって繋がる。スポーツでもやってるっていうんなら、自業自得で諦めてもらおう。でも、卒業シーズンの浮かれたガキがポリス沙汰になるよりは、病院送りの方がずっとよくないかい? 

 今までの経験上、喧嘩馴れしてないツレがいると、こっちも向こうもひどい目に会う。チームプレイってのは信頼が大切だ。

 これを読んでいる諸兄は、突発的な喧嘩で、バカな完全決着なんざを求めないで、双方の被害を最小限に押さえるべく、手術を行うような気持ちを持って修羅場には挑んでいただきたい。
posted by 久遠 at 22:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | アウトロー通信
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